食い倒れの街で

・作

 安岡亨は大阪に出張に来ていた。そこで取引先の宮地朱音と飲み会後にふたりきりで飲み直す事になる。関西弁で話す朱音に魅力を感じて誘われるまま関係を持つ。亨は食べ歩きを予定していたが、朱音を味わう事になり、彼女の体を堪能する。

今回の出張は当たりだと、安岡亨はビールを飲み干して思った。地元民しか来ないような居酒屋だったが、意外と居心地がいい。
 商談はとんとん拍子で決まり、誘われた飲み会も話が弾んで楽しく過ごせた。

 帰りの新幹線の時間を遅めにして、明日は目星をつけておいた店の料理に舌鼓を打つ予定だった。なんといっても大阪は食い倒れの街、思う存分食べるつもりだった。
 30を過ぎて、少しずつ出てきたお腹の事は忘れる事にした。

「安岡さんって、この後どうするんですか?」
 宮地朱音が隣に座って聞いてきた。

 今回の企画をまとめたのは彼女で、メールでのやりとりはあったが、直接会うのは今回が初めてだった。

「せっかくだから、タコ焼きかお好み焼きでも買ってホテルで食べようと思ってます」
「だったら、私と食べにいきません? 二次会はなさそうだし、ふたりきりで。まだ飲み足りませんし」
「あ……はい」

 誘われているのかと思いかけて首を振る。今日会ったばかりで虫が良すぎる。
 とはいえ、飲み会に来たのも彼女がいたからというのも大きかった。

 印象的な大きな目とぽってり厚い唇に、柔らかそうなショートの髪。恐らく、二十代後半。
商談の時は緊張していたのか固い笑顔だったが、飲み会で緊張がほぐれたのか、コロコロとよく表情が変わった。

*****

「それじゃ、改めて乾杯」
 連れてこられたのはお好み焼き屋だった。
「おっ、うまい!」
「でしょう?」

 豚玉を頬張っている朱音に、亨は一歩踏み込んでみた。
「ここからは敬語禁止にしない?」
 朱音は豚玉を飲み込み、ペロッと唇を舐めた。
「ええの?」
 方言に、ドキッとする。

「ああ」
「それじゃあ、ついでに無礼講で。飲み物ないやん、なんか頼む?」
「じゃあビールで……あ、終電は大丈夫?」
「んー……安岡さんのホテルに泊めてもらおうかな、なんて」
「え?」
「あかん?」

 断れるはずがなかった。

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